五感を刺激する
「料理」と「色」の関係性
PHOTOGRAPHY BY GOTTINGHAM
TEXT BY NAOKI KOTAKA
PHOTOGRAPHY BY GOTTINGHAM
TEXT BY NAOKI KOTAKA
フードディレクターの野村友里さんは、日本各地の生産者から届く新鮮な食材を、食材や季節に寄り添った調理方で提供する食の空間「restaurant eatrip」の運営を軸に、世界・日本の各地を訪れ知り合った、国外・国内のシェフをゲストに迎えた食事会や料理教室の定期開催や、各種イベントのケータリングによる独創的な演出、映画作品や雑誌、ラジオなどの様々なメディアを通した情報発信など、多岐に渡る活動を通して、食を通じた豊かな生活の風景を提案し続けてきた。<br>「eat(食べる)」と「trip(旅する)」の二つの言葉から生まれた、野村さんが主催するフードクリエイティブチーム「eatrip」のネーミングに由来するとおり、「食」とは、土地の風土や文化を身体に取り込み、生きることを知るための「旅」であると、野村さんは言う。そんな「旅」を通して出会った食材、また食材の特性から創造されるユニークな調理法、そして食の体験を更に豊かにしてくれる「色」の存在について話を聞いた。
食べることを豊かにする、
食以外の要素
- 料理と出会ったきっかけは?
- 料理というのは、単にお皿に盛って振る舞うだけではなく、食事を愉しむ空間、つまりは器やお花、おもてなしの作法といった、食べるという経験を豊かにする、様々な要素から成り立っているのだと母から学びました。ですから、私にとっての料理とは、単なる味覚にまつわる話ではなく、作り手の生き様そのものだと考えてきました。幸運にも、これまでに国内外の様々な場所を訪れては、生き方が理屈抜きに格好良い、そんな料理人に出会うことができ、彼らとの交流が、現在の私の料理を形成する手助けをしてくれたのだと思うのです。
風土と色の関係性
- 世界・日本の各地を訪れる中で、色の発見はありますか?
- 日本国内を旅すると、同じ色なのに、北と南でまったく性格が異なることに気付きます。気候の寒暖と同じように、同じ赤色でも北は彩度が低く、南は鮮やか。土地それぞれの色を発見することができます。東京の色のイメージは、コンクリートのようなグレーですね(笑)。逆に、東京は日本全国の“色”が手に入る場所だから、どこか混沌としていますよね。淡い、叉は反対に鮮やかな色だけを求めるなら、東京にいる必要はないのかもしれません(笑)。
四季折々の食材を取り入れる
- 日本の春夏秋冬にまつわる食材と色の関係性を教えてください。
- 春は新芽や山菜の緑色。夏はトマトやパプリカ、ペッパーなどの鮮やか赤色。秋は柿の橙色や、栗やきのこ類の茶色。冬は蕪や大根、百合根の白色。そんな季節ごとの色を料理に取り入れるようにしています。野菜や果物を眺めていると、いつも不思議と色の発見があるんです。触れたものを赤く染めてしまうビーツの汁、放射状に走る紅芯大根の繊維、あたかもテキスタイルの模様のような赤玉葱の皮など、自然界の色はどこか人知を超えていて、それゆえに美しいと感じます。
色の調和がもたらす、
味覚への作用
- 色と味にはどのような関係性があるのでしょうか?
- 食材同士も色が似ていると、どうやら気が合うようです(笑)。感覚的なお話ですが、近似色の食材同士というのは、刺激的というよりは調和的な味を生み出すことが多いような気がします。味の取り合わせだけではなく、お皿の盛りつけなどの視覚的な調和も含めて、相性の良さは確かに存在すると思います。料理を作る時は決まって、素材ありきで調理法を考えます。煮てみようか?焼いてみようか?細かく切ってみようか?ペーストにしてみようか?など、食材との出会いを大切にしながら、そこから発展する料理のあり方について常に考えています。
- 色をどのように料理に取り入れるのでしょうか?
- フードカラーなどの着色料を使うことはありません。料理に関して言えば、食材の色そのものを活かすことを心がけています。食における色というのは、食前の完璧な盛りつけだけではなく、例えば、食後のお皿にビーツとオリーブオイルの残り汁が混じっていたり、意図的でない部分こそ美しいと感じます。料理をする過程で、異なる色の食材を混ぜることは、味覚的にも視覚的にも、単調にならないようにリズムを与えたり、対比をつくることでインパクトを与えるのに一役買ってくれる気がします。勿論、味や香りを伴った、五感を通しての料理の作用ですが、鮮やかな色の取り合わせは、眺めているだけで自然と元気をいただけるような気がするものです。
食べることは生きること
- 色の捉え方は、和食と洋食で異なりますか?
- 日本料理というのは、本来は有機的な素材を丸や四角に切り揃えたり、お皿の余白を意識しながら盛りつけたり、より人間の手が入った料理法のように思います。一方、最近の西洋料理の傾向は、素材本来の形を活かしながら、より有機的な方法で素材と向き合う、そのような印象を受けますね。
- 色の魅力とは何でしょうか?
- 食に携わる中で、色というテーマが面白いのは、色には無限の幅があるからなんです。例えば、蕪のすり流しの白さは、眺めているだけで、背筋が伸びて、どこか気分が浄化される気がします。一方、パエリアの色の取り合わせは、あらゆる色や素材を使って気分の興奮を誘っているように感じるのです。極端ですが、すり流しを飲んで、サルサを踊る気分にはならないですよね(笑)。勿論、このお話は、風土や国民性といった話題につながっていくのですが。私の場合は、和とか洋とか以前に、畑に育つ野菜を引っこ抜いて、そのままいただく(笑)。そんな風景こそ料理の原点だと思うのです。人間だからこそ悩んだり、理屈つけたり、こだわりや美学がある。けれど食べることは根源的なもので、あるものをそのままいただく、そのシンプルさこそが美しいと思うのです。
食卓から考える、
より良い暮らし
「野村さんは近年、食に関わる多角的なコミュニティーづくりを目指して、新たな活動を始動した。2011年には、カリフォルニア バークレーにあるオーガニックレストラン、「Chez Panisse」のシェフを中心とした アーティストグループ 「OPENrestaurant」を日本に招聘し、食とフードの参加型イベント「Open Harvest」を開催。同イベントを契機に、日本のシェフたちと「nomadic kitchen」を結成し、以来日本各地で、食のライブイベントや地域の食材を活かした商品作りのプロデュースを精力的に行っている。食を通じて、作る人と商う人、そして食する人が、世代や立場、地域を越えて集い、生きることについて皆で考える。そんな理想の場を求めて、野村さんの食を巡る旅はどこまでも続いていく。
restaurant-eatrip.com
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