Inspiration

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自由奔放に色彩を遊ぶ
フローリスト
PHOTOGRAPHY BY GOTTINGHAM
TEXT BY NAOKI KOTAKA

PHOTOGRAPHY BY GOTTINGHAM
TEXT BY NAOKI KOTAKA

原宿の大通りから一本入った裏通りに佇む日本家屋。周囲の喧噪とは無縁の、豊かな緑と日差しにあふれる都会のオアシス。そんな場所に「THE LITTLE SHOP OF FLOWERS」はある。花を軸にファッション、インテリア、フードなどの様々な要素と掛け合わせながら、花の魅力と、その無限の可能性を発信し続けている。同店を営むフローリストの壱岐ゆかりさんに、花との出会いと、花の可能性を拡げる色の存在について話を聞いた。

週末限定オープンで始めた
小さな花屋

花屋を始めようと思ったきっかけは?
数年前までは、PR会社を経営しながら、週末限定で「THE LITTLE SHOP OF FLOWERS」を営業していました。営業を始めたばかりの頃、趣味でつくった花束を「色が素敵ですね」と友人が褒めてくれたんです。その時に感じた喜びが、今でも私のモチベーションになっていますね。自分では、ごく感覚的に作った花束のどこが特別なんだろう?と思っていたのですが(笑)。というのも、他の花屋さんと同じ市場で選んだのだから、出来上がる花束にも大差はないだろうと。後々、気づいたのですが、当時から自然に存在しない色、一歩間違うとエグいと思われるような色に惹かれていました。

花屋のタブーを知る

花との出会い以外で、色に意識的になったのはいつ頃でしょうか?
大学時代は建築を専攻していたので、製図やスケッチをするのに、何百色もあるようなマーカーのセットを使っていました。幼い時に、母にねだったのも、ドイツのステッドラーというメーカーの色鉛筆セットでした。今思い返すと、幼い時から、色に意識的だったのかもしれません。花屋を始めた当時は、それこそ絵の具を選ぶ感覚で花を選んでいました。私にとっての特別な色というのは、生花やドライ、プリザーブドを取り合わせるという、他の花屋さんでは見かけない、花屋のタブーとされているような行動から、偶然生まれたのだと思います。染色した花というのは、色が移りますし、お客様の手にとっても優しくない。ただし、当時は自分が思い描いた、ある特定の色を花で表現する気持ちが何より先立っていたのだと思います。花に対して無知だからこそ、可能だったなと(笑)。

引き立て役としての花

壱岐さんのインスピレーションとは何でしょうか?
前職の頃から、食、服、空間、音楽と、ジャンルは違えど、私の周りにはものづくりに携わる友人が多かったことから、自然とクリエイティブなインスピレーションをもらっていたのだと思います。生地選びなのか、空間の設えなのか、友人たちが生み出すアウトプットを引き立てる役として、長い間、花が自分に向いていると考えていました。花屋でありながら、どこか生花一筋になれないのも、純粋な花だけの世界より、花の世界では本来受け入れてこられなかった方法を掛け合わせることで、自分なりに花の可能性を拡げることができると思うからなんです。
そう言いつつも、花屋として経験を積んでいくうちに、極端な色のコントラストを取り合わせるだけではなく、その中間色に興味を持ち始めました。優しい色が好きになったと言えばいいのでしょうか(笑)。絵の具を選ぶ感覚というのも、今では花と季節の関係を踏まえた上で、活かすことができるようになりました。
四季折々でどのような花が市場で手に入るのでしょうか?
ハーブ系の花が豊富に市場に揃うのを見ると春の訪れを、花が散り、果実を実らす前の野菜が花を咲かせると夏の訪れを感じます。秋になると落ち着いた色彩の葉ものや枝ものが増え、ミモザを見ると、冬について考え始めます。

花を染色する

染色に興味を持ったきっかけについて教えてください。
母の日の準備をしている時期に、市場でたまたまネイビーのカーネーションを見かけたんです。あまりの美しさに、威勢よく、ネイビーのカーネーションで母の日のブーケを作りますとお客さんに宣言したものの、再び市場に戻った時には既に全て無くなっていました(笑)。慌てて、染色の方法を聞いて、白いカーネーションを仕入れて、自分で試したみたんです。それが染色を始めたきっかけですね。
花の染色は、どのように行うのですか?
花を染めるには、染色液を吸わせるのと、染色液に浸けるのと、二通り方法があります。生花の手入れ法として一般的に知られている「湯あげ」の応用で、茎の下を20秒ほどお湯に浸して、花が水分を欲する状態にしたところで、冷水に浸すと、新鮮な水を葉の先端まで一気に吸い上げて、驚く程、生き生きします。同じ原理で、冷水の代わりに染色液に浸すと、色が隅々まで浸透する訳です。もう一つの方法は、生花を脱色液に浸けた後で、着色液に浸し、乾燥させる、いわゆるプリザーブドフラワーの方法ですね。

花をもっと自由に

色の存在は、どのように花の可能性を拡げることが可能だと思いますか?
代々木上原に店を構えていた頃は、私が花を染めている姿を見た、通りがかりの近所のおばあちゃんに「花が可哀そう」とよく言われたものです(笑)。思い返すと、染色の行程に興味があったから、花を染め始めたのではなく、花を通してしか見れない、色の世界に触れたかったのだと思います。色との出会いは、枠組みにとらわれず、もっと自由に、花の可能性は無限だと、私に考えるきっかけを与えてくれたのだと思います。

国境を越え、世界へ

「THE LITTLE SHOP OF FLOWERS」の都内にある二店舗では、四季折々の生花は勿論、ドライフラワーやプリザーブドフラワーのアレンジから、押し花やフラワーボックスにいたるギフトアイテム。ウェディングをはじめとするイベントへの装花や、店舗のウインドウやオフィスへの定期的な活けこみ、花器や園芸道具、食物を展開するギフトショップなどを展開。今年3月には、アメリカ・ロサンゼルスにて、陶芸家のアダム・シルバーマンのスタジオを会場に、シルバーマンの陶芸作品に花を活け、販売を行った。同時に、鹿児島の木工作家、盛永省治さんの一輪挿し、栃木の陶芸家、二階堂明弘さんの器、東京のフードクリエイティブチーム、eatripによるお菓子など、日本のものづくりの今を伝える、期間限定のショップをオープン。大盛況のうちに幕を閉じた。昨年12月には、イギリス・ロンドンの、エースホテルロンドンショーディッチにて、ワークショップを開催。「花はもっと自由になれる」のフィロソフィーがどおり、国境を越えて育っている「THE LITTLE SHOP OF FLOWERS」のユニークな活動から益々目が離せない。


thelittleshopofflowers.jp