色のエネルギーを実感する
TEXT BY SAKIKO FUKUHARA
TEXT BY SAKIKO FUKUHARA
2016年のデビュー以降、モノクロームのドローイング作品を経て、色彩豊かなペインティング作品、二枚一組の写真作品、観る者の脳内を刺激するコラージュと、様々な技法で表現を続けるアーティスト、大竹彩子。イメージの断片を採集し、日々新しい表現に挑む。現実と虚構の狭間を自由に行き来する彼女の創作活動について話を聞いた。
―愛媛県・宇和島市で過ごした幼少時代の思い出はありますか?アーティストを志したきっかけ、ご自身の中で原点となる作品について教えてください。
生まれてから高校卒業まで、山と海に囲まれた宇和島市でのびのび育ちました。小さい時から描くことが好きで、作ることをずっと続けていきたいなと漠然と思っていたように思います。父のアトリエに遊びに行って、油画の匂いを感じたり、粘土遊びをしたり、段ボールで遊んだり、作ることは日常の中にありました。東京の四年制大学に進学し、在学中に参加したサマースクールがきっかけで、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズに入学しました。はじめはグラフィックデザイン科に在籍していたのですが、自分の手で描きたいという思いが強くなり、イラストレーション科に異動したんです。卒業制作で発表した『SAICOLLECTION』は、日々の生活の中で気になったモチーフをひとつずつ描き、エンブレムにしたものをTシャツの裏に縫いつけた作品です。本心のところ、秘密にしておきたい“好きなもの”の集合体なので、あえて裏に縫いつけました。今振り返っても私の作家活動の原点となる作品です。
SAICOLLECTION, 2016, acrylic on canvas, thread, T-shirt
写真を二枚一組で構成した写真集も興味深く拝見しました。大竹さんにとって、写真作品の立ち位置を教えてください。
写真集に掲載されているものは、たしかロンドンに行ってから撮りためたもの。直感的に惹かれるものを写真に収めていて、はじめはドローイングのモチーフ集めのために撮り始めました。見たものを手で描き残せるスケッチブック、見たままを正確に記録できるカメラというツールの使い分けをしています。どこに行くにもカメラを持ち歩いていて、基本トリミングはしないので、できる限り対象物に近づいて、自分が本当に好きなモチーフだけを正確に切り取るようにしています。横位置だと余計なものが映り込むことが多いので、必然的に縦のカットが多いんです。色やフォルムがどこかリンクする二枚を一組にして発表していて、撮影した都市ごとに冊子にまとめ計13冊を制作しました。中でも色使いで印象に残っているのは台湾。北九州で撮影をした時は昭和の匂いが残る場所を訪れました。街が整備されていくと、どんどん淡い色調になっていく印象があるのですが、元気の良い時代の色使いは大胆で鮮やかで、どうしても心惹かれてしまいますね。
OSAKA4360/OSAKA4446, 2021, digital print
ロンドン時代のモノクローム作品を経て、2019年のDIESEL ART GALLERYでの個展『COSMOS DISCO』では、ヴィヴィッドなペインティング作品を発表されました。目が覚めるような鮮やかさがありながらも、どこかノスタルジックな色使いが印象的です。意識している配色について教えてください。
DIESEL ART GALLERYでの個展が決まり、初めてキャンバスに絵筆を使って描くことに挑戦しました。ずっと色と色を組み合わせることが好きだったので、カラー作品を制作することは自分にとってはごく自然なことでしたね。いちばん悩んだのは配色。すんなり決まる時もあれば、何度も消し塗り直すこともあるし、自分が納得いく配色にたどり着くまでに時間がかかることもありました。日頃から心惹かれるのは鮮やかな原色で、外国の看板、江戸時代の浮世絵の色合いから、インスピレーションを得ることも多いです。
left: LOVE FOR YOU, 2019, acrylic on canvas, 727×606<br>right: SPACESHIP LAYOUT, 2019, acrylic on canvas, 530×455
作品のモチーフの多くは女性ですよね。目の中が空洞になっていますが、作品の中での目の存在について教えてください。
いつか描きたいなと思って、ロンドンのマーケットや古本屋でピンナップ写真や女優のブロマイド写真集を買い集めていたんです。今はそのストックを消費するように、描きたい欲求を作品にぶつけています。常に強く美しい女性像を描きたいと思っています。観てくれる人に余白を残すという意味で、瞳を描かず目を空洞にしています。ロンドンで発表した初個展(2016年)のタイトルは、脱皮を意味する『EXUVIA』と名付けました。日々の中で見つけたものが私の中で栄養となり、脱皮する。その抜け殻が作品となっているという感覚が軸になっているのかもしれません。自分の余韻のようなものが彼女たちの中に残っているような気がします。
left: GAL B, 2020, acrylic on canvas, 1167×910<br>right: GAL E, 2020, acrylic on canvas, 1620×1303
心斎橋パルコでの個展『GALAGALAGALA』(2021年)では、新作のペインティング『MANNEQUIN HEAD』、コラージュ『PHOTOMAZE』も発表されました。この2作品のコンセプトについて教えてください。
マスクをつけることが日常となり、家族や友人とも会えない時期が続いています。誰かの顔を思い浮かべた時、その記憶がどんどん曖昧になっていく。そんなことから顔にフォーカスした作品を描きたいと思い『MANNEQUIN HEAD』が出来上がりました。いつもは人物の位置を決めて描くのですが、今回は初めに顔だけを描き、髪の毛の部分を残すように背景を塗っていきました。複数枚の写真をモノクロ化して切ったり破ったりし、出来上がったのがコラージュ作品の『PHOTOMAZE』。完成した作品をみると、異空間で撮った一枚絵のように見えるのが面白いですよね。タイトルは「写真の迷路」という意味。カラー写真よりもモノクロ同士のほうが混ざり合いやすく、立体化していくように感じました。コロナ禍の生活の中で、本当に確かなものはないと実感したこともあり、“壊したい”という反動が『PHOTOMAZE』の中に映し出されているかもしれません。この作品と比べると『MANNEQUIN HEAD』は「もっと何かを信じたい」という私の想いが表れたのかなと思います。顔がお花ののようにも見えたりして、色が持つ力を実感しましたね。
left: MANNEQUIN HEAD〈AQUA〉, 2021, acrylic on canvas, 606×500<br>right: PHOTOMAZE 6, 2021, paper, acrylic, medium, varnish on canvas, 803×651
見たもの、見たことがないもの、絵を描く中でその境界線についてどのように考えますか?作家活動を通して表現していきたいことは?
街の中で好きなものを探し、採集したものが写真。こんな世界があったらいいなというのが絵だとしたら、『PHOTOMAZE』は写真と絵の中間地点のような気がします。絵もどんどん抽象的になってますし、うまく描かなきゃっていうよりもっと感覚的に自由に描いていきたい。現実と非現実のボーダーがどんどんなくなってきているように感じます。私自身のフィルターを通さないと表現できないことはきっとある。色んな場所を訪れてインプットし、ポジティブな気持ちでアウトプットし、面白い世界を創造し続けたいです。これから先も描くのみ、作るのみだと思っています。
GAL SSS, 2020, acrylic on canvas, 1940×1303
大竹彩子
1988年、愛媛県生まれ。2016年、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインを卒業。主な展覧会に、個展『EXUVIA』(2016年/ツルプラスリム〈ロンドン〉、キズキプラスリム〈シンガポール〉)、個展『KINMEGINME』(2018年/ギャラリー・アートアンリミテッド〈東京〉)、個展『COSMOS DISCO』(2019年/DISEL ART GALLERY〈東京〉)、個展『GALAGALA』(2020年/PARCO MUSEUM TOKYO〈東京〉)がある。2021年3月8日まで、心斎橋PARCOにて『GALAGALAGALA』を開催中。3月20日から6月13日まで清里フォトミュージアムで開催される『ヤング・ポートフォリオ展』に参加。シブヤ・アロープロジェクトでは初のパブリックアート作品を制作。saikootake.com