Epoi x
Daikei Mills
Artisanal Dialogue 02

Inspiration

アルティザナル・ダイアログ

最高品質の革素材、機能と美を併せ持ったデザイン、そして熟練の職人による手仕事を結集させたエポイのプロダクト。エポイのものづくりに込められたストーリーをより多くの方々に知って頂きたいという思いを込めて「アルティザナル・ダイアログ」の名を冠したコラボレーションプロジェクトをスタートしました。

第二弾は東京を拠点に活動する設計事務所ダイケイ・ミルズをコラボレーターに迎えエポイの新しいストアコンセプトを考案して頂きました。3月31日、銀座・数寄屋橋に開業したエリア最大級の商業施設、東急プラザ銀座内にオープンした新店舗「エポイ・ブロック」のコンセプトとは? ダイケイ・ミルズ主宰の中村圭佑さんに空間づくりにまつわる話を聞きました。

東急プラザ銀座で
体験する
エポイの
新しいストアコンセプト
PHOTOGRAPHY BY GOTTINGHAM
TEXT BY NAOKI KOTAKA

東急プラザ銀座で体験するエポイの新しいストアコンセプト

バッグデザインと
空間デザインの接点

まずは「エポイ・ブロック」のデザインインスピレーションを教えて下さい。
デザインに先だってエポイの商品を見せてもらったのですが、その中で最も興味を惹かれたのが「Shiki(Bag)」シリーズのバッグでした。平たい革パーツを立体的にバッグに組み上げるというプロセスに、インテリアデザインとの接点を見つけたのです。それぞれの革パーツの形状と、それらをバッグに縫製するためのパターン、その二つを店舗デザインに活かそうと考えました。
バッグのデザインをどのように空間に落とし込んだのでしょうか?
形状、素材、色彩などの店舗空間を構成する要素の全ては、エポイのバッグデザインから導き出されています。具体的には「Shiki(Bag)」を構成する全ての革パーツの形状をトレースし、そのまま什器の形状として使用しました。また、什器の素材には「Shiki(Bag)」の裏側のラフな質感を模して、牛革をあえて裏返しで使用し、色展開豊富なエポイのバッグを際立たせる配色として、グレーがかったピンク色で牛革を染めました。
ものづくりの現場を連想させる空間

ものづくりの現場を
連想させる空間

「エポイ・ブロック」のネーミングの由来は何でしょうか?
当初は、工場やアトリエなどの場所を連想させるような「studio」「lab」「factory」などの言葉を、店舗名にしようと考えていました。というのも、今回の店舗デザインでは、お店を訪れる人々が目にすることはないエポイのものづくりの現場、つまりは鞄工場の空間のエッセンスを店舗デザインに反映することを目指していたからです。鞄工場には、革のシートを何十枚も積み上げた“固まり”が点在していますが、そんな“固まり”をイメージしてデザインしたのが「エポイ・ブロック」の革で巻かれた什器です。丁度、デザイン案をクライアントに見せた時に、什器を指して「block」と呼んだのです。その言葉の響きにしっくりきて、そのまま店舗名に採用しました。
最終案に行きつくまでに、他のデザイン案はあったのでしょうか?
本当は、革のシートを1枚1枚積み上げて什器を制作したかったのです。しかし、この手法だと1ミリ厚の革を使ったとして、1メートルの高さを出すのに1,000枚の革が必要になる(笑)。コストを考えると非現実的だったので、革ではなくバッグの芯地素材を使うことも検証しました。平たい革パーツを什器として立体的に立ち上げるのに、何らかの素材を積み上げてボリュームを構成するという手法は必然だったように思います。最終的には、異なる高さのボリュームを革で巻き、それらを積み上げて什器を制作しました。
自然素材が空間にもたらす躍動感

自然素材が空間に
もたらす躍動感

過去の作品では、例えば木を使うにしても、化粧板ではなく無垢の木を選ばれていますし、「エポイ・ブロック」の什器にも合皮や素材感の似たもっと安価な素材を使わずに、本物の革を使っている。こうした素材の選び方にはどのような理由があるのでしょうか?
例えば、木を使うにしても無垢材というのはひび割れもしますし、それぞれ質感や色味のむらがある。二つと同じものが存在しない不均一な素材であるからこそ、私は自然素材にたまらなく惹かれてしまうのです。「木」「土」「水」「岩」等々…どれを取っても、自然界には均一なものが存在しない。それゆえに自然に囲まれると、空間が生き生きと躍動して感じる。インテリアデザインという仕事の性質上、私のデザインから生まれる空間が人工的であることには変わりありません。けれども、導線、機能、設備などの設計上の必然に、自然素材がもたらす偶然を融合させることで、想像を超えた空間と出会うことができると思うのです。
素材の立体性

素材の立体性

異なる素材をどのように空間に共存させるのでしょうか?
異なる自然素材が互いにぶつかり合わないように、プロジェクトごとに使用する素材を3~4種類に絞ります。ミニマル・アートにおける彫刻作品の手法に近いかもしれませんが、同じ自然素材を連続して配置することで、空間をコントロールするのです。同じ素材の連続と聞くと、均一な空間が想像されるかもしれませんが、例えばコンクリートであれば、土と砂利の配合率を変えたり、顔料を加えたり、打設や左官の手法を変えることで、素材の一貫性を保ちながらも、多様にアレンジされた色味や質感が細部に見えてくるのです。
私にとっての素材とは、質感や色味などの平面的な美しさにのみならず、素材と素材の間に存在する空間そのものに作用する、立体的な美しさを与えてくれるものでもあります。まさにインスタレーションアートをつくっているような感覚で、素材を空間に配置し、相互の距離をデザインすることで、視覚だけによらない、より広範囲な空間認識の一部として、素材を感じとることが出来るのです。
最新と最古が共存する都市 - 東京

最新と最古が
共存する都市 - 東京

エポイ・ブロック」が入る東急プラザ銀座をはじめ、東京では大規模な開発が近年進んでいます。そんな東京のダイナミックな都市環境の変化からインスピレーションを得ることはあるのでしょうか?
先程はインテリアデザインにおける必然と偶然というお話をしましたが、東京はまさに必然によって都市空間が構成されてきたと思うのです。例えば、東京を代表する建築物である首都高速は、1964年開催の東京オリンピックを前にして、都心の主要地区と拠点会場を結ぶことを目的に建設されましたが、まさにこの当時は、経済成長の速度に都市環境が追いついていないという状況が起こっていた訳です。現代の東京の風景を見ると、そんな時代時代の都市機能の“必然”が、そのまま建築物として立ち上がってきたようなダイナミックさを感じます。一方では、高層ビルの裏に、開創数百年を越えるようなお寺や樹齢千年を越える木が残っていたりする。新旧が一緒くたになって共存しているという“偶然”に驚かされることが度々あります。この古いお寺の存在のように、私のデザインする空間も、たとえ最新の商業施設の中にあったとしても、周辺環境とは異なる空間の“趣”を感じることのできるような、そんな場であって欲しいのです。
Rits, 2015

居心地の良さの起源

中村さんにとっての居心地の良い空間とは?
幼少の頃に森に入ってよく遊んだのですが、木々や岩に囲まれながら、土を踏みしめる、そんな原初的な体験が私にとっての“居心地の良い”という感覚につながっている気がします。木々に繁る葉は葉脈を走らせ、水分と養分を流しながら成長のエネルギーを生成している。森の中で時間を過ごすと、そんなエネルギーの“存在”や“気配”を確かに感じることができたのです。インテリアデザインの世界では、いわゆる平面を連続させていく、いわば絵画的・写真的な手法が主流ですが、そこから生まれる空間もまた絵画的・写真的である、つまりは空っぽだと思うのです。私が自然素材を彫刻的に使うのはそれを避けるためで、インテリアデザインの主流とは正反対ですが、私にとっては、物質の存在感や気配に満たされた自然環境のような空間からこそ、居心地の良さを感じることができるのです。
Shiki, 2015

空間の理想形

最後に、DAIKEI MILLSの空間づくりを表す、3つの言葉を教えてください。
本来の空間とは、物質と物質の間に存在するため目に見えませんが、その存在をどうにか理解するために、「黒」「気配」「動物」という3つの言葉が助けになってくれました。まず「黒」というのは、己を消すことで、光をより際立たせる、そんな存在ですが、インテリアデザインに置き換えると、造作物の存在が消え、空間のみが意識されるという、まさに空間の理想形を表した言葉です。次に「気配」というのは、素材を質量の総体として捉えることで、空間に確かな存在感を与える、そんな素材選びの基準を設けてくれる言葉です。最後に「動物」というのは、マーキングをすることで境界をつくるという、そんな最小限の操作でも空間はつくり得るということを教えてくれた言葉です。私の空間づくりにまつわるこの3つの言葉を頼りに、是非「エポイ・ブロック」を実際にご覧頂ければと思います。

バイオグラフィー

中村圭佑

中村圭佑

1983年静岡県浜松市生まれ。2011年に東京を拠点とするデザイン・設計事務所ダイケイ・ミルズを設立。レストランやブティック、オフィス、ギャラリーなど様々な空間のデザインを手掛ける。主な作品に「ロク ビューティアンドユース ユナイテッドアローズ シンジュク」(2016年/ 東京)、「ミュージアム カフェ&レストラン ザ サン&ザ ムーン」(2015 年/ 東京)「ザ プレミアム モルツ タップバー/レストラン阿蘇」(2014 年/ 熊本)「デルソウ」(2015 年/ パリ)「シボネ」 (2014 年/東京)「ピルエット」(2014 年/東京)。現在、国内外で多数のプロジェクトを進行中。
daikeimills.com

過去の作品

Session, 2016
Session, 2016
Nu+Lim, 2016
Nu+Lim, 2016
Session, 2016
Session, 2016
Pirouette, 2014
Pirouette, 2014

ストア情報

Epoi block
エポイ・ブロック

東京都中央区銀座 5-2-1 東急プラザ銀座 4階
営業時間:11:00 a.m. – 9:00 p.m.
TEL:03-6264-5229

エポイは、銀座5丁目の数寄屋橋交差点前に誕生した大型商業施設「東急プラザ銀座」4階に新しいストアコンセプトを採用した新店舗をオープンしました。エポイのバッグからインスピレーションを得たダイケイミルズの空間デザインによって、ブランドの控えめでありながら洗練されたラグジュアリーが見事に空間に具現化されました。まるで、ミニマル・アートの彫刻作品のようなアーティスティックな空間が、訪れる人をエポイの深淵なクラフツマンシップの世界へ導きます。