• Inspiration

    Inspiration


    エポイがキュレーションするインスピレーション

進化するフェミニン
PHOTOGRAPHY BY GOTTINGHAM
TEXT BY NAOKI KOTAKA

  • Photography by GOTTINGHAM
  • Text by NAOKI KOTAKA

今年1月に公開された.fataleのエポイ特集ページでもスタイリングを手掛け、雑誌・広告をはじめとする幅広い分野で活躍するスタイリストの遠藤彩香さん。彼女のスタイリングは、女性らしさを“奇麗”や”優しい”だけに限定せずに、相反する要素を掛け合わせることで、女性の抱える多面性を自由に表現する。メンズライクな服を積極的に取り入れた彼女のスタイリングと、そして彼女自身のパーソナルスタイルは、まさに”フェミニンの進化形”と言える。そんな彼女のスタイルは果たしてどのように培われたのか?、また今、彼女がスタイリングで表現したい女性像とは?

ショーケースの向こう側

子供の頃の夢は何でしたか?
幼い頃の私は洋菓子店で働きたいと思っていました。子供の背丈から見ると、色とりどりのケーキが並ぶショーケースって、夢の中の世界のように見えたんですよね。その様子を絵に描いて遊んでいました。また、女の子だったら誰もが憧れるように、アイドルになりたいとも思っていました。テレビに映る、80年代調の煌びやかな衣装を着たアイドル達を羨望の眼差しで見ていました。ショーケースであれテレビであれ、現実とは異なる華やかな“向こう側”の世界を、子供ながらに想像するのが好きだったのだと思います。
ファッションに興味を持ち始めたのはいつ頃だったのでしょうか?
家族がクリーニング店を営んでいたので、実家に隣接して、業務用の洗濯機や乾燥機などの設備を揃えた工場があったんです。高級衣類のクリーニングも請け負っていたので、ブランド品や着物を山のように預かっていた。そんな環境で育ったので、知らず知らずの内にファッションに興味を持ったのだと思います。また公立校には珍しく、通っていた中学と高校が私服を取り入れていたので、毎日学校に何を着ていくのか考える必要があった。それで、ファッション雑誌も読み始めるようになりました。

スタイリングの楽しさを知る

ファッションの学校にも通われたのでしょうか?
服飾の専門学校に進学したかったけれど、家の事情で叶わなかったんです。けれど、ファッションの仕事に就くことは諦めきれなかった。高校卒業後の進路について考えている時に、ある本屋で”販売員になろう”という本に出会い、その本の影響から、まずは仙台で販売員職に就いてみようと決めたのです。その後、地元店でのアルバイトを経て「レイビームス」で働き始めました。当時から、様々なブランドの服を組み合わせて着るのが好きだったので、ブランドショップではなくセレクトショップで働くことは、自分にとって自然な選択でした。実は、仙台にあるビームスのお店は、業務委託された地元の会社が経営していて、その会社の社長が別のセレクトショップも経営していたんです。ある時、もう一つのセレクトショップのバイヤーが私を引き抜いてくれて、接客だけではなく、バイイングやウィンドウディスプレイの仕事もさせてくれるようになった。そして、自分が組んだスタイリングをウィンドウのマネキンに着せたり自分で着ていると、面白いようにスタイリングに組み込んだ商品が売れたんです。思い返すと、この経験が私にスタイリングの楽しさを教えてくれたのかもしれません。

憧れのスタイリストとの
出会い

スタイリストに転向しようと決めたきっかけは何だったのでしょうか?
販売員の仕事は楽しかったのですが、続けていくことへの葛藤もありました。そこで、東京に引っ越して別のファッションの仕事に就く可能性を探ろうと思ったのです。東京ではアルバイトをしながら、単発でスタイリストアシスタントの仕事をしていました。ある時、いつものようにクラブで遊んでいて、後に私の師匠となるMoriyasu(現エイトピース所属)のアシスタントと知り合いました。当時、Moriyasuはビームスのカタログのスタイリングをしていて、販売員時代から彼女の作品は私にとっての憧れでした。丁度、友人がアシスタント卒業間近だったので、運良く、私が後任に就くことが出来たのです。その後、アシスタントをしながら空いている日はカフェで働きました。当時、アルバイト先の店長が色々良くしてくれて、作品撮りするのに営業前のお店を使わせてくれたり、友人のヘアスタイリストを紹介してくれました。彼の友人というのが、当時ロンドンから帰国したばかりの小田代裕さん(現モッズ・ヘア所属)というヘアスタイリストで、小田代さんとは一緒に作品撮りしたり、後に私が独立した時は、雑誌の編集を紹介してくれたりもしました。このように振り返ってみると、偶然ながら、要所要所で才能ある人達に巡り会えたからこそ、スタイリストとしての今の自分があるのだと思うのです。

その時の気分で、
好きな服を着る

今回の撮影のために選んでもらった、遠藤さんのパーソナルスタイルに欠かせないアイテムについて教えて下さい。
昔からメンズライクなアイテムが好きで、ライダース、バンドTシャツ、ジャージなどのアイテムを、その年の気分に合わせて買い足しながら着ています。若い頃からスケートボードをしたり、レコードを集めたりして、男の子に混ざって遊んでいたので、自然とメンズライクなアイテムを取り入れるようになったのだと思います。当時の私は、「ヴィヴィアン・ウエストウッド」のようなデザイナーズブランドを着る、エッジでフェミニンな女の子と、「ア・ベイジング・エイプ」や「グッドイナフ」などのストリートブランドを着る、メンズライクな女の子の両方に憧れていました。“その時の気分で、好きな服を着る”。それこそが私のスタイルの基盤なのかもしれません。

女性の抱える多面性を
表現する

今、遠藤さんがスタイリングで表現する“美しい”女性とは?
女性らしさを表現するのに、ただ“優しい”だけでは不十分だと思うんです。だから、私のスタリングでは、凛々しい顔のモデルには、あえてソフトな色味や素材感の服を着せることで”隙”を作ります。“優しい”けれど“強い”とか、相反する要素を兼ね備えている女性って魅力的じゃないですか? そんな一つの枠に囚われない多面性こそが、女性の最大の魅力だと思うのです。